FX152J PRO の絶対最大定格オーバー動作から破壊を回避する YDA138 の保護動作を確認する

FX152J PRO の仕様である15W+15W/4Ω出力の絶対最大定格超過の検証


 YDA138 には、絶対最大定格を超える動作の出力に対して素子の直接破壊を抑止する保護回路が内蔵されている。
 この例の保護回路動作は、最大許容損失を超える動作の温度上昇により出力が停止されそれ以上の温度上昇はなくなり、その後の自然冷却により最大許容損失以下の温度になり動作可能領域に戻ることから、再び最大許容損失を超える動作の出力が開始され、それに伴う温度上昇により、最初に停止した状況と同じ繰り返しとなり、この繰り返しの結果のつまり出力の断続が永遠に続くことになる。
 下図はその出力の断続の様子を15W+15W/4Ωの出力から開始して後、断続が起こらなくなるまで出力を徐々に下げて観測した波形である。
その観測の結果として、7W+7W/4Ωの出力ポイントでは、出力の断続は収まり連続出力が可能となった。



7W+7W/4Ωの出力で出力が断続しない安定動作が可能になった理由


 その理由は単純に最大許容損失を超えない領域で動作していることによるもので、下記計算結果のとおり 7W+7W/4Ω の許容損失は 2.73W、許容温度は 28.5℃ となっていることから、下記「最大許容損失対周囲温度」のチャート図で確認できるとおり、周囲温度 25℃(検証時の室温)のポイントで最大許容損失を下回っていることが確認できる。
 一方、8W+8W/4Ω の計算結果は 3.06W(許容温度:16.3℃)となっており、これは同チャート図で確認のとおり約 0.5W の最大許容損失超過であり、その影響は上記波形図で確認できるとおり1回の出力停止が発生している。
  7W+7W/4Ω の出力で安定動作を得られたが、その時の最大許容温度は 28.5℃までしか許容されていない。
 実際の製品の YDA138 はほぼ密閉された筐体の中に収められるのであり、夏場の筐体内周囲温度は 50℃ 以上が想定され 28.5℃ を遥かに超えてしまうことから正常な動作はしない
 これに対し、データシートの仕様にある 10W+10W/8Ω では前ページで確認したとおり、許容損失:2.07W 許容温度:53℃ と計算されており、この 53℃ は夏場でも動作可能にしている。
 さらに、このデータシートの許容損失と許容温度の条件を 4Ω負荷に当てはめると、下記計算結果のとおり 5W+5W/4Ω の出力しか保証されないのである(計算するまでもなく、負荷が 8Ω から 4Ω の半分になれば、電力も半分にしないと同じ許容損失にならないから 10W が 5W になるという単純な話)。
 以上の検証結果により、4Ω 負荷の出力は 8Ω 負荷に比べ実用できる出力の周囲温度範囲が狭くまた、許容できる出力自体も小さくなるという特異な特性が明らかになった。

7W+7W/4Ω出力の許容損失計算結果
出力:7W+7W/4Ω
許容損失:2.73W
許容温度:28.5℃

8W+8W/4Ω出力の許容損失計算結果
出力:8W+8W/4Ω
許容損失:3.06W
許容温度:16.3℃

5W+5W/4Ω出力の許容損失計算結果
出力:5W+5W/4Ω
許容損失:2.07W
許容温度:53℃




結論!・・・

FX152J PRO の 15W+15W/4Ω という実用出力は不可能である
ノースフラットジャパンは「電源電圧 12V、負荷 4Ωにおいて 17W+17W の出力を計測し、さらに電源電圧 13.5V の同負荷で 20W+20W の出力を計測した」という。以下、この計測を事実のように見せかける工作の方法を考察してみた。
 その工作の一つは、出力に4Ω負荷を接続せず無負荷状態にし(※1)、それに過大な信号を入力して最大限に歪ませた(THD+N=18~50%)出力を発生させた状態の測定電圧値に対し、接続しなかった4Ω負荷を接続したことにして計算し、その出力数値を表示する。
 もう一つは、同じ過度な入力信号条件で、片チャンネルのみに4Ω負荷を接続し(※2)測定した出力結果を両チャンネルから同時出力したのもとして表示する。
 以上の方法で測定したなら「絶対最大定格」の超過はなく、出力が停止することはないが、正規の方法で測定していたなら「絶対最大定格」超過によるこれまで説明してきた異常動作を経験することになり、実現不可能な出力と認知されることになる。

 ※1:無負荷では、負荷電力をまったく消費せず、絶対最大定格の超過に至らない。
 ※2:片チャンネルのみの負荷接続では、負荷電力が半分になり、絶対最大定格の超過に至らない。

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